多くの方にとって、退職金は人生設計をするうえで重要な資金です。しかし、自分がもらえる退職金の額や適正額なのかどうかを把握している方は少ないです。この記事では、企業規模や業種、勤続年数別の退職金の相場を解説します。記事を読めば、自分の退職金の位置づけが明確になり、より確実な将来設計が可能です。
退職金の相場を把握し、人生設計に役立ててください。
【企業規模別】退職金の相場
退職金の相場は、企業規模によって大きく異なります。企業規模別の退職金の相場を紹介します。
大企業
大企業の退職金は、一般的に中小企業よりも高額になる傾向です。平均的な退職金額は約2,300万円です。大企業の退職金は、勤続年数が長く、役職が上がるほど上昇します。業種や職種によって金額に差があり、退職金規定が明確に定められている場合も多いです。
退職金の支給方法には、一時金として受け取る方法と年金方式で受け取る方法があります。税金面では、退職金は課税対象ですが、退職所得控除の適用を受けられます。しかし、近年では退職金制度を廃止したり縮小したりする大企業も増えているため注意が必要です。企業の経営状況や労働環境の変化に応じた変化です。
中小企業
中小企業の退職金の相場は、大企業と比較して一般的に低くなる傾向にあります。平均支給額は約750万円とされていますが、企業の規模や業績によって大きく異なります。勤続20年以上の従業員でも約1,000万円であり、企業の規模が小さいほど支給額も少ない傾向です。
中小企業退職金共済制度(中退共)を利用する企業が多い特徴があります。中小企業では、退職金の原資を確保するのが難しい場合もあるため、中退共などの外部の制度の活用がおすすめです。制度の活用により、従業員の退職後の生活保障を支援できます。
近年では、成果主義の導入により、一律支給から変動制へ移行する企業も増えています。退職金制度がない企業も増加傾向にあるため、従業員自身による退職後の資金計画の策定が必要です。
【業種別】退職金の相場
退職金の相場は業種によって大きく異なります。業種別の退職金相場を以下にまとめたので参考にしてください。
- 製造業
- サービス業
- 公務員
製造業
製造業の退職金は、他の業種と比較して比較的高い水準にあり、平均支給額は約1,000万円です。退職金の金額は企業規模や勤続年数によって大きく異なります。企業規模や年収別の退職金の一例は以下のとおりです。
- 大手製造業
- 1,000〜2,000万円
- 中小製造業
- 500〜1,000万円
- 勤続20年
- 800万円
- 勤続30年
- 1,300万円
職種によっても差があり、技術職や管理職の退職金は高めの傾向にあります。自動車や電機、化学などの大手製造業では高額になることが多いです。しかし、近年は退職金制度の見直しが進んでいます。業績連動型の退職金制度を導入する企業が増加しているだけでなく、退職金の廃止や減額を行う企業も増えています。
定年後の再雇用制度により、退職金が分割支給される場合もあるので注意が必要です。退職金は企業の状況によって大きく異なる可能性があることを忘れないでください。
サービス業
サービス業の退職金相場は、平均して約1,000万円前後です。他業種の大企業と比較すると低いですが、中小企業よりは高い水準にあります。勤続年数や役職によって大きく変動し、業種内でも企業によってばらつきがあります。ホテルや旅館業は比較的高いですが、飲食業は比較的低めです。
小売業は中程度の水準であり、ITや通信業は高めの傾向にあります。サービス業の退職金相場は企業や職種によって大きく異なるため、個別に確認してください。
公務員
公務員の退職金は、民間企業と比べて高額である特徴があります。平均退職金額は2,000万円以上で、民間企業の2倍以上です。公務員の長期勤続を奨励し、安定した人材確保を目的にしているためです。退職金は、主に勤続年数や最終給与、職位にもとづいて決まります。
国家公務員と地方公務員で若干の違いはありますが、退職手当の支給率は勤続年数に応じて段階的に上昇する仕組みです。早期退職制度を利用すると、割増退職金が支給される場合もあります。組織の新陳代謝を促進するための施策の一つです。近年、民間企業との格差是正のため、公務員の退職金支給額の引き下げが進んでいます。
最新情報を収集しておくと、人生設計を立てやすくなります。
【勤続年数別】退職金の相場
退職金の相場は勤続年数に応じて変動し、長く勤めるほど高額になる傾向です。勤続年数別の退職金の相場を以下にまとめました。
勤続5年
勤続5年の退職金の平均額は約110万円です。ただし、企業規模によって金額に差が生じます。大企業では約130万円ですが、中小企業では約80万円になっています。勤続5年の退職金額は、勤続年数が短いため低くなりがちです。退職金は、一般的に基本給に係数をかけて算出されます。
勤続年数が短いため、退職金にかかる税金も比較的低くなりやすいです。退職金は、次の就職先への準備金や生活費に充てる方が多い傾向です。
勤続10年
勤続10年の場合の目安として、大企業では約100〜150万円、中小企業では約70〜100万円が相場になっています。退職金の計算式は「基本給×支給率×勤続年数」が一般的です。支給率は企業によって異なりますが、1〜3か月分が標準です。
退職金は長年の勤務に対する報酬であり、将来の生活設計に大きな影響を与えます。勤続10年という節目で、自身の退職金について理解しておきましょう。
勤続20年
勤続20年の退職金は、1,000万円前後が一般的です。しかし、実際の金額は企業規模や業種によって大きく異なります。大企業では1,500万円以上の退職金を受け取れる可能性もあります。一方で、中小企業では約500万円の場合も多くあるため、事前確認が必要です。
勤続20年のタイミングで退職金が大きく上昇する傾向にあるため、キャリアプランを考えるうえで重要です。退職金には「退職所得控除」という税制優遇措置があり、20年を超えると手取り額が増えるため、お得に受け取れます。
勤続30年以上
勤続30年以上の社員の退職金は、一般的に最も高額です。平均的な退職金額は約2,000〜3,000万円ですが、大企業では4,000万円以上になることもあります。退職金の金額は企業規模や業種、役職などの要因によって異なります。中小企業の場合は、約1,000〜2,000万円が一般的です。
ただし、勤続年数に比例して退職金は増加する傾向にあるため、30年以上勤務した場合はさらに高額になる可能性があります。定年退職の場合が最も高額になりやすい一方で、自己都合退職の場合は減額されやすいので注意が必要です。
退職の理由や時期によっても金額は変わる可能性があるため、退職する前に退職金規定などを調べておきましょう。
自分の退職金を調べる方法
退職金の金額の把握は、将来の人生設計において重要です。自分の退職金の確認方法は以下のとおりです。
- 会社の規定を確認する
- 退職金シミュレーションを利用する
会社の規定を確認する
会社の規定を確認すると、自分の退職金を正確に把握できます。多くの企業では、退職金に関する情報が就業規則や退職金規程に記載されています。人事部門に問い合わせて、規定を入手しましょう。規定には以下の情報が含まれています。
- 退職金の計算方法
- 支給条件
- 勤続年数や役職による違い
- 退職理由による変動
- 支払い時期や方法
- 税金に関する情報
労働組合がある場合は、組合への相談もおすすめです。退職金前払い制度の有無や、中途退職の場合の扱いなど、細かい点についても確認しておきましょう。会社の規定を丁寧に確認すると、自分の退職金についての正確な情報を入手できます。疑問点があれば、人事部門に質問しましょう。
» 退職手続きの流れや必要な書類などについて詳しく解説!
退職金シミュレーションを利用する
退職金シミュレーションを利用すると、自分の退職金の概算を把握できます。将来の資金計画を立てるうえで役立つツールです。多くの無料オンラインツールが利用可能で、勤続年数や年齢、役職などの情報を入力するだけで簡単に結果が得られます。
シミュレーションの結果は、業界や企業規模に応じた平均値をもとに算出されます。より正確な結果を得るためには、複数のシミュレーターを比較してください。ただし、シミュレーションの結果はあくまで目安であり、実際の退職金額とは異なる可能性があるため注意が必要です。
企業独自の退職金制度がある場合は、人事部門に直接確認すると確実です。定期的にシミュレーションを行うと、自分の将来設計に活かせます。退職金は長期的な視点を持つことが重要なので、シミュレーションを活用して退職金の概算を把握してください。
退職金を補うためにできること
企業からの退職金を補うためにできることを以下に3つ紹介します。
- iDeCo(個人型確定拠出年金)
- NISA
- 個人年金保険
iDeCo(個人型確定拠出年金)
iDeCo(個人型確定拠出年金)は、老後の資金作りに役立つ私的年金制度です。制度を利用すると、自分で掛け金を積み立てて運用できます。iDeCoは税制優遇を受けられる点が大きな特徴です。掛け金は全額所得控除の対象となり、運用益にも税金がかかりません。
受け取る際も公的年金等控除の対象になるため、税制面でお得です。iDeCoの主なメリットは以下のとおりです。
- 自分で運用商品を選択
- 掛け金の増減や中断が可能
- 転職時も継続可能
- 受け取り方法の選択肢
iDeCoは60歳まで引き出せない制限があるため、注意してください。長期的な視点で老後の資金作りを考えている方におすすめの制度です。近年では、iDeCoの加入対象者が大幅に拡大され、利用できる対象者が広がりました。退職金を補う手段として、iDeCoの活用を検討してみましょう。
NISA
NISAは、少額投資非課税制度の略称です。NISAを利用すると、年間120万円まで投資ができ、運用益や配当金が非課税になる、投資初心者におすすめの制度です。NISAには、一般NISAとつみたてNISAの2種類があります。それぞれの特徴を以下にまとめました。
- 一般NISA
- 年間120万円まで投資が可能。非課税期間は5年間。投資対象は株式や投資信託、ETFなど。
- つみたてNISA
- 年間40万円まで投資が可能。非課税期間は20年間。投資対象は投資信託など。
NISAは18歳以上の日本居住者が、金融機関で口座開設をすると利用できます。2024年からは新NISA制度がスタートし、非課税投資枠が拡大されます。長期的な資産形成に適しているため、退職金の運用や補完にも活用できる制度です。
個人年金保険
個人年金保険は、老後の生活資金を確保するための貯蓄型保険商品です。保険に加入すると、定期的に保険料を支払う代わりに、将来年金として受け取れます。一定条件下で保険料の所得控除が可能な税制優遇措置があります。受取開始年齢は60歳以降が一般的です。運用方法には定額型と変額型があります。
解約返戻金もありますが、払込保険料より少なくなる場合があるため注意が必要です。個人年金保険には、死亡保障機能を付加できるタイプもあります。ただし、加入時の年齢や性別、払込期間などにより保険料が変動するため、注意が必要です。低金利環境下では運用利回りが低くなる可能性があります。
金融機関や保険会社によって商品内容や条件が異なるため、自分に合った商品を選んでください。個人年金保険は、退職金を補う手段の一つとして検討する価値があります。ただし、他の選択肢と比較しながら、自分のニーズに合った方法を選びましょう。
退職金の相場に関するよくある質問
退職金の相場に関するよくある質問を以下にまとめました。疑問点や不安の解消に役立ててください。
- 退職金がもらえない場合はどうする?
- 転職した場合の退職金はどうなる?
- 退職金制度の変更は可能?
退職金がもらえない場合はどうする?
退職金がもらえない場合は、個人年金や確定拠出年金などの私的年金制度を活用する方法がおすすめです。対策としてiDeCoやNISAなどの資産形成や副業、投資による追加の収入源の確保、保険によるリスク対策が効果的です。早期からのキャリアプランニングと資格取得を行うと、安心した将来を迎えられます。
退職後の生活設計を見直し、支出を抑える工夫も重要です。現在の勤務先で退職金制度の導入を検討してもらえないか、労働組合や従業員代表を通じての交渉もおすすめです。適切な対策を組み合わせると、退職金がなくても将来の経済的安定を目指せます。
転職した場合の退職金はどうなる?
転職した場合、退職金は新しい勤務先の制度にもとづいて計算されます。一般的に、前職での勤続年数は考慮されないため、退職金の金額が少なくなりかねません。一方で転職先企業によっては、中途採用者向けの特別な退職金制度を設けている場合もあります。
特別な制度を設けている企業では、前職での経験や実績を評価して退職金を算出することも珍しくありません。ただし、転職を繰り返すと各企業での勤続年数が短くなるため、結果的に退職金が少なくなりやすいです。転職を検討する際は、退職金制度の有無や条件を確認してください。
前職の退職金は、転職時に一括で受け取れます。一部の企業では、前職の退職金を転職先の企業年金に移管できる制度を設けている場合もあります。転職時期によっては退職金の金額が大きく変わる場合もあるため、慎重に検討してください。
退職金制度の変更は可能?
退職金制度の変更は可能ですが、従業員の不利益になる変更には同意が必要です。変更には、以下の手順が必要です。
- 就業規則の変更手続き
- 変更の合理性の説明
- 労使協議や説明会の実施
一般的に、変更の際は経過措置を設ける必要があります。変更後の制度を明確にし、従業員への十分な周知期間を設けなければいけません。変更に伴う従業員の不満や離職のリスクにも注意が必要です。変更を検討する際は、専門家や社会保険労務士への相談がおすすめです。
退職金制度の変更は、従業員の理解と協力を得ながら、適切な手順で進めてください。
まとめ
退職金の相場は、企業規模や業種、勤続年数によって大きく異なります。大企業や製造業、公務員は比較的高額な傾向があり、勤続年数が長いほど退職金も増加します。自分の退職金を知るには、会社の規定を確認したり、シミュレーションを利用したりする方法がおすすめです。
退職金がない場合や少ない場合に備えて、iDeCoやNISA、個人年金保険などで補うことも検討してください。転職時には前職の退職金が減額またはなくなる可能性もあるため、注意が必要です。退職金制度の変更には労使の合意が必要です。退職金に関する疑問や不安がある場合は、会社や専門家に相談しましょう。
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